『日本語で読みたい韓国の本-おすすめ50選』第6号（2017年発行）より

社会派推理小説家と称されるソン・シウ作家の短編集。幼女殺害事件から20 年の月日が流れたある日、犯人の弁護人のもとを訪れた被害者の母親が、ある取り引きを持ちかける「子の骨」。動物病院に飼い犬を預けた女性が、自室で変死体となって発見される「親友」など、日常生活の中で巻き起こる事件を描いた９作品を収録。

壮大なスケールの事件が起こるわけでもなく、大がかりなトリックが隠されているわけでも、ビッグな黒幕が登場するわけでもない。出来心や人間関係のひずみ、歪んだ愛情が原因となって起こる「日常に紛れ込んだ」事件が描かれる作品が並ぶ。その日常性あふれる設定のために、自分が同じ立場に置かれたなら、自分は果たして犯行に及ばずにいられるだろうか？　と疑問を抱いてしまうような事件、加害者の気持ちが痛いほどよくわかる事件も語られる一方で、平穏な風景に隠されたグロテスクな事件、人間の心の奥底に潜む欲望と残虐性が露わになる事件も語られる。どこかもの悲しくもありながら温かな「情」を感じる作品、等身大の人間ドラマが随所に見え隠れするソン・シウの作品は、性別、年齢を問わず、読者の心に速やかに浸透するだろう。