2014年4月16日、韓国南西部沖合で旅客船・セウォル号が沈没。
事故当時から日本を含めて世界のメディアは傾いたセウォル号や救出の様子、
そして韓国社会が抱える問題点を大きく取り上げました。
経済的格差や公共財の民営化にともなう安全問題、悲劇の裏側には、韓国だけの問題ではない
グローバル資本の巨大な落とし穴がありました。
傾いた大きな旅客船は、それぞれの国、社会を意味したに違いありません。
【だれも降りられない「資本主義という船」の行方は?】「誰もこの船から降りられない。
私たちが失ったものを取り戻すまでは」
どれほど注意しても事故は起きる。だが同じ悲劇を前にして、更なる成熟を見せる社会もあれば、多大な犠牲を払ったうえに崩壊する社会もある。2014年4月16日、セウォル号の惨事を経験した韓国はどのような道を進むことになるのか。経済学者ウ・ソックンが書いた『降りられない船』は、この事故はなぜ起こらざるを得なかったのか、韓国社会の深部を貫く視点で背景を分析すると同時に代案を提示する。
なぜ命の問題が経済格差に左右されるのか。利益を追求する社会において公共システムをどのように保障できるのか。大きな悲劇の裏で「惨事便乗型資本主義」はどのように隠密に事を進めているのか? そして何より、韓国社会に希望を与える未来の主体はどのように成長しうるのか。
各界の専門家の協力をもとに作られた本書は、非常に現実的な代案を示すとともに、私たちがこれまであまりにも当たり前なために見捨てたり、忘れてしまったりしていた価値について悟りを与える。皆が一体となってこの問題を解かねば、誰も降りられない「大韓民国」という船に必要な、苦しくも知恵に富んだ解決法を見つけることはできない。
『主なもくじ』・2014年4月15日のセウォル号
・悲しい通話
・おれたちは幽霊船に乗ったのさ
・最初から乗船しないことは不可能だったのか
・経済的な差別、民営化そして公共性
・船長―船主―企業―政府
・国はなぜ船の中に残っていた人を一人も助けられなかったのか
・便乗しようとする人々の<惨事便乗型資本主義>
・なぜ日本の引退した船舶に乗ることになったのか
・セウォル号メモリアル、忘れないために ほか
「日本語版『降りられない船』の翻訳出版に際して」はこちらから【関連イベントレポート】
『降りられない船-セウォル号沈没事故からみた韓国』著者来日記念 ウ・ソックン×中沢けい トークイベント(2014年10月29日 三省堂書店 神保町本店にて)
【著者 ウ・ソックン】ソウル出身。延世大学卒業後、パリ第10大学で経済学博士号を取得。人生の4分の1をドイツ、フランス、イギリス、スイスで過ごし、国連気候変動枠組条約の政策措置コンタクト・グループ議長、技術移転専門家グループ理事を最後に公職から退いた。現在、聖公会大学と延世大学で教鞭をとっている。
著書に『病んだ子どもたちの世代』(2005)、『食べ物、国富論』(2005)、『88万ウォン世代』(2009年に明石書店から『韓国ワーキングプア 88万ウォン世代』として翻訳出版)、『直線たちの韓国』(2008)、『生態ペタゴジー』(2009)、小説『Mofia 財政部のマフィア』(2012)などがある。
【翻訳 古川綾子】
千葉県千葉市生まれ
神田外語大学韓国語学科卒業
延世大学校教育大学院韓国語教育科修了
第10 回韓国文学翻訳院 翻訳新人賞受賞